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東京家庭裁判所 昭和60年(家)14371号 審判

申立人 ロナルド・オスカー・シュレーダー 外1名

主文

申立人らが事件本人を養子とすることを許可する。

理由

第1申立ての趣旨及び実情

申立人らは、主文同旨の審判を求め、申立ての実情として、「申立人らは、1979年8月2日に婚姻したスイス人の夫婦であるが、実子を持つことがほとんど不可能であるため、事件本人を養子に迎え、自分たちの持つているものを子供と分かち合いたい。」旨述べた。

第2当裁判所の判断

1  裁判管轄権及び準拠法

本件は、スイス連邦の国籍を有する申立人らと日本の国籍を有する事件本人との間のいわゆる国際養子縁組の事件であるところ、申立人ら及び事件本人はいずれも日本に住所を有するから、本件については日本の裁判所も裁判管轄権を有することは明らかである。

一方、本件の養子縁組の許否を判断するに当たつて適用すべき法律は、我が国の法例19条1項によれば、事件本人に関しては日本民法であり、申立人らに関してはその本国法であるスイス養子縁組法である。そこで、申立人らに関する準拠法につき法例29条による反致の成否を検討するに、スイスにおいて国際私法としての役割を有している1891年6月25日の「居住者及び滞在者の民事的法律関係に関する連邦法」は、その8条a、8条b及び8条cに渉外養子縁組に関する規定を置いているが、渉外養子縁組に適用される準拠法については、この中に直接的な規定はなく、立法者はこの問題の解決を実務にゆだねたものと解されている。そして、スイスの実務においては、当事者(養親となるべき者)の住所の存する外国においてその外国の実体養子縁組法に従つて適法になされた養子縁組は、スイスにおいても当該外国法上認められている効果(単純養子縁組、完全養子縁組)を有するものとして扱われている。これは、結局、スイスの実務においては、渉外養子縁組の準拠法を当事者の住所地法としているのに等しいから、本件においては、法例29条により、申立人らに関しても日本民法に照らして養子縁組の許否を判断することができるものと考えられる。

2  本件養子縁組の許否

申立人両名及び田山法子(事件本人の母)の各審問の結果、その他一件記録中の資料によれば、

(1)  申立人らは、1979年8月2日(以下、年代は西暦で示す。)に婚姻した夫婦であつて、いずれもスイス国籍を有し、1984年7月28日から日本に滞在していること、夫のロナルド・オスカー・シュレーダーは、1979年10月1日から○○○外務省に勤務し、現在、在日○○○大使館の○○○部長をしていて、相応の収入を得ていること、申立人らは、いずれも高い教育程度と教養を有し、事件本人の養親として十分な適格を有していると認められること

(2)  一方、事件本人の母田山法子(1960年9月15日生)(以下、「法子」という。)は、琢磨良一との婚姻中の1982年8月14日に事件本人を出産したが、実際の事件本人の父は、法子がたまたま性関係を持つたアメリカ人の黒人男性であつたこと、この男性の所在は現在では明らかでないこと

(3)  申立人らは、実子がなく、今後も実子ができる可能性が少ないことから、日本で養子縁組をしたいと考え、1984年10月、日本国際社会事業団にその申込みをしたこと、また、法子も、事件本人が黒人男性との混血児であること等から、このまま自分が養育するよりも外国人夫婦養子とした方が事件本人の幸福のためであると考え、1985年3月、日本国際社会事業団に事件本人の養親探しを依頼したこと

(4)  事件本人は、日本国際社会事業団の仲介により、1985年5月24日に申立人らに委託されたこと、事件本人は、現在、申立人らのもとで安定した生活を送つており、申立人らも、今後とも愛情を持つて事件本人を養育していきたいとの意向を有していること

などの事実を認めることができる。

以上の認定事実に基づき、日本民法に照らして判断するに、本件養子縁組についてはその成立を妨げるような事情は見いだし得ず、事件本人は、その実母のもとで養育されるよりも、むしろ申立人らのもとでその養子として養育される方が、その福祉にそうものであると認められる。

3  結論

よつて、本件申立ては理由があるから、申立人らが事件本人を養子とすることを許可することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 河邉義典)

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